方針
行列方程式を成分で比較し,対角成分と非対角成分の式を取り出す。非対角成分から,もし a+d+1=0 なら b=c=0 となるが,その場合は実数 a が a2+a+1=0 を満たすことになり不可能である。したがって a+d=−1 が決まる。さらに対角成分から ad−bc=1 を示せば,与えられた2次方程式は x2+x+1=0 となり,その解は1でない3乗して1になる数であると分かる。
解答
行列方程式 A2+A=−E を成分で比較する。まずA2=(a2+bcac+cdab+bdbc+d2)であるから,A2+A=(a2+bc+ac(a+d+1)b(a+d+1)bc+d2+d)である。これが−E=(−100−1)に等しいので a2+bc+a=−1, b(a+d+1)=0,c(a+d+1)=0, d2+bc+d=−1 を得る。
ここで,もし a+d+1=0 であったとする。このとき非対角成分の式から b=0,c=0 である。すると対角成分の式は a2+a=−1 すなわち a2+a+1=0 を含む。しかしこの方程式の判別式は 1−4=−3<0 であり,実数 a については成り立たない。したがって a+d+1=0 でなければならない。よって a+d=−1 である。
次に d=−a−1 を用いる。対角成分の式 a2+bc+a=−1 から bc=−a2−a−1 である。一方 ad=a(−a−1)=−a2−a なので ad−bc=(−a2−a)−(−a2−a−1)=1 である。
したがって,与えられた2次方程式は x2−(a+d)x+ad−bc=0 であるから x2+x+1=0 となる。この解を ω とする。ω=1 なら左辺は3となるので,ω=1 である。また ω2+ω+1=0 を満たすから ω3−1=(ω−1)(ω2+ω+1)=0 である。ω−1=0 なので ω3=1 である。よって,この2次方程式の各解の3乗は1となる。
別解
解法2
方針
2次正方行列について成分計算で確かめられる恒等式を、与えられた行列方程式と比較する。これにより、係数が0でないなら A が実数のスカラー行列になって矛盾することを使い、a+d=−1、ad−bc=1 を一度に決める。
解答
2次正方行列 A について、直接成分を計算するとA2−(a+d)A+(ad−bc)E=Oが成り立つ。一方、仮定はA2+A+E=Oである。2式の差を取ると(a+d+1)A=(ad−bc−1)E(1)を得る。
もし a+d+1=0 なら、(1)より A は実数 r を用いて A=rE と表される。これを A2+A=−E に代入するとr2+r+1=0となるが、左辺は(r+21)2+43>0であり矛盾する。したがって a+d+1=0、すなわち a+d=−1 である。さらに(1)から (ad−bc−1)E=O となるので ad−bc=1 である。
よって問題の2次方程式はx2+x+1=0となる。その解 x は x=1 であり、x3−1=(x−1)(x2+x+1)=0だから x3=1 である。
総評
難易度6、計算量4。想定時間15〜22分。成分比較では非対角成分に共通する a+d+1 を見つけ、0でない場合を仮定して実数条件と矛盾させる。恒等式を使う解法では、2次行列の恒等式を必ず成分計算で確認してから用いる。問題が明示的に行列を扱うため行列計算は適切だが、固有値・行列式による体積など高校範囲外の道具は不要である。最後に x=1 を確認してから x3−1 を因数分解する。
冊子PDFで見る北大の行列の問題で問題集を作る
出典: 北海道大学 1985年度 前期 数学。問題文はHTML表示のために再入力・数式組版しています。