方針
(1) は2次行列が自分の2次式を満たす恒等式を成分比較で作る。ただし A=kE でない条件により、A と E の係数比較ができることを明記する。(2)はまず A=kE の場合を除き、(1)の関係式と A3+A=O を組み合わせて A2+E=O を導く。最後に −A が逆行列であることを積で示す。
解答
(1) A=(acbd)とする。直接計算するとA2=(a2+bcc(a+d)b(a+d)bc+d2)である。ここで A2−(a+d)A+(ad−bc)E の各成分を見ると、左上は a2+bc−a(a+d)+ad−bc=0 であり、右上、左下もそれぞれ 0、右下も bc+d2−d(a+d)+ad−bc=0 となる。したがって A2−(a+d)A+(ad−bc)E=O である。
いま A2−xA+yE=O も成り立つので、2式を引くと {x−(a+d)}A−{y−(ad−bc)}E=O となる。もし x−(a+d)=0 なら A は単位行列の実数倍になってしまい、仮定に反する。よって x=a+d であり、続いて y=ad−bc である。
(2)
まず A=kE と仮定すると、A3+A=O から (k3+k)E=O となる。実数 k について k3+k=k(k2+1)=0 だから k=0 であり、これは A=O となって仮定に反する。したがって A は単位行列の実数倍ではなく、(1)を用いることができる。
(1) より A2−xA+yE=O ただし x=a+d、y=ad−bc である。この式に右から A を掛けると A3−xA2+yA=O である。A3=−A を代入して xA2+(1−y)A=O を得る。さらに A2=xA−yE を用いると x(xA−yE)+(1−y)A=O すなわち (x2+1−y)A−xyE=O である。A は単位行列の実数倍でないから x2+1−y=0,xy=0 が必要である。ここで x=0 なら y=1、また y=0 なら x2+1=0 となり実数では不可能である。よって x=0,y=1 である。したがって A2+E=O すなわち A2=−E である。よって A(−A)=(−A)A=E となるから、A は逆行列をもち A−1=−A である。
別解
解法2:行列式が0の場合を先に排除する
方針
(1) は2次正方行列の各成分を直接比較する。(2) はまず行列式が0だと仮定し、(1)の恒等式から A=O が導かれることを示す。これで逆行列の存在を確定してから、与式を因数分解する。
解答
(1)
直接計算によりA2−(a+d)A+(ad−bc)E=Oが成り立つ。これとA2−xA+yE=Oとの差を取ると{x−(a+d)}A−{y−(ad−bc)}E=O.A=kE だから A,E は実数係数について比例せず、x=a+d,y=ad−bc.(2)
A3+A=O を満たす A=O を考える。もしdetA=ad−bc=0なら、(1)の恒等式からA2=(a+d)A.よって A3=(a+d)2A であり、与式は{(a+d)2+1}A=Oとなる。係数は正なので A=O となり矛盾する。したがって detA=0 で、A は逆行列をもつ。
ここでA(A2+E)=Oの左から A−1 を掛けるとA2+E=O.ゆえにA(−A)=(−A)A=Eであり、A−1=−A.
総評
難度は10段階中6、計算量は10段階中5。2次行列の標準恒等式を知っていても、係数比較に A=kE が必要である点を書かないと論証が弱くなる。(2)は A(A2+E)=O からすぐ逆行列を主張できないため、(1)を経由して A2+E=O そのものを導くのが安全である。試験場では15分程度で、例外 A=kE の排除を先に処理したい。
冊子PDFで見る東北大の行列の問題で問題集を作る
出典: 東北大学 1990年度 前期 数学。問題文はHTML表示のために再入力・数式組版しています。